休職手当の支給条件と手続き方法を知って万一のケガや病気に備えよう
公的制度から手当がもらえることもある
社会人として経験を積み、仕事にもひと通り慣れてきたころに急なケガや病気に襲われることもあります。治療そのものももちろん大変ですが、それ以上に気にかかるのはやっぱりお金の問題ではないでしょうか。
万一大きなケガや病気で長い期間仕事を休むことになっても、休職手当などの公的制度を利用することによって一定の割合で収入が保障されます。休職手当の種別とそれぞれの申請方法を詳しく把握しましょう。
休職時手当について
現行の法律では、深刻な骨折や病気療養によって収入源が経たれた場合、手当を一定期間受給する権利が認められています。ここでは、ケガや病気に特化した傷病手当を中心に、休職手当の概要と大まかな支給要件についてお伝えしています。
大きなケガや病気で一定期間仕事を休む必要に迫られている方は、御自身の状況で手当の申請や受給が可能であるどうかをチェックなさってください。
休職手当と休業手当の違いは
予期せぬケガや病気によって仕事を休んだ場合、手当がまったくなければその期間は完全な無収入になってしまいます。
そうしたことをさけるために設けられているのが「休職手当制度」です。休職手当を受給することで仕事を休んでいる期間も一定の割合で収入が保障されるため、復帰後の生活を気にすることなく治療に専念することができます。
休職手当は、会社に勤めている間に予期せぬケガや病気に見舞われた場合、その間の収入を保障するためのシステムであり、「ケガや病気で通常の業務がこなせない」ことが支給の前提条件になります。
一方の休業手当は会社側の都合によって通常の業務が行えない状況が長くつづいた際に支給される手当で、ケガや病気をしていなくても会社側にやむを得ない事情が認められれば支給される仕組みになっています。
休職手当と休業手当。どちらも労働基準法できちんと認められた労働者の権利ですので、「ケガが軽いからどうせ支給されない」などと自分で決めつけることなくまずは申請してみましょう。
休職理由にもいろいろある
最近では疾病の定義が広がり、うつ病などの精神疾患に対しても状況によっては手当の受給が認められるようになりました。
うつ病による休職の場合にも、手当の受給が妥当であると認められれば外科的なケガや病気と同様、「標準報酬日額の3分の2」が支給されます。ただし、精神疾患の場合、最終出勤日の設定には注意する必要があります。
「最終出勤日=退職日」にしてしまうと、「退職するその日まで業務をこなせる状態にあった」と見なされ、手当を受給する資格がなくなってしまいます。業務の引継ぎなどでやむを得ず退職日まで出勤しなくてはならない場合は、有給休暇や欠勤扱いにして対応するようにしましょう。
なお、妊娠中も「妊娠悪阻、切迫早産、流産、妊娠高血圧症」のいずれかにあてはまる場合には休職手当を申請することが可能です。ちなみに、休業と休日は一見すると同じ意味のようですが、厳密にはニュアンスがまったく異なっています。
休業日とは、「本来であれば職務にあたるべき日にもかかわらず、会社側の都合によって出勤停止などを命じられた日」を指します。一方、休日は「もともと労働の義務が課されていない日」のことで、原則として給与の支払い対象にはなりません。
休職手当および休業手当を申請する際にはまず、休日と休業の違いを把握することが重要で、休業期間を算出する際にもこうした知識が役に立ちます。
健康保険の傷病手当金
休職手当は、社会保険のひとつである健康保険から支払われます。したがって、会社に勤めていたとしても公的な雇用保険に加入していなかったり、配偶者の扶養控除の範囲内で働いている場合は傷病手当金を申請することができません。
国民健康保険のみの場合も同様に受給が認められませんので、入社する際に必ず公的な雇用保険に加入しているか、また、配偶者扶養控除の要件にあてはまっているかどうかを確認しておきましょう。
なお、傷病手当金はあくまでも業務時間外に生じたケガや病気による休職中に適用されるものであり、職務中に生じたケガや病気については労災の範囲内になりますので、あらかじめ整理しておきましょう。
傷病手当と傷病手当金の違い
傷病手当と傷病手当金は語感としても非常によく似ているため混同されがちですが、拠出や支給要件などの面で大きな違いがあります。
まず、傷病手当は会社に勤めている間は受け取れません。一方、傷病手当金は「在職中の無収入期間を解消するための制度」であり、会社に勤めていることが申請の前提条件になります。
また、傷病手当と傷病手当金では拠出元に違いがあり、それぞれ社会保険か雇用保険かという差があります。また、申請窓口も変わってきますので事前にチェックしておきましょう。
特に、「会社側が社会保険に加入しているか」ということも重要で、仮に社会保険に会社側が加入していない場合には休業手当などを受けられない可能性があるため、「いざという時に話が違う」ということにならないよう、入社前にそのあたりのルールもよく確かめておきましょう。
傷病手当の支給対象の人は
傷病手当は失業手当の一部という扱いですので、原則的に退職後でなければ申請することができません。
原則として、傷病手当と傷病手当金を同時期に受給することはできませんが、退職前に「任意保険の継続手続き」をすませている場合、会社を辞めていたとしても2年間はどちらの手当を受給するかを選択することができます。
ただし、その場合も傷病手当と傷病手当金を重複して受給することはできませんので、トータルの支給額を比較したうえでメリットの大きいほうを選びましょう。
傷病手当金の仕組み
傷病手当と混乱しがちな傷病手当金。実際に申請するにあたってはどのような違いを意識すれば良いのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
支給される条件
働く人々の支援を促進することになる傷病手当金。勤続期間が長くなると申込の機会も増えますので、できるだけ早く詳細な申し込み要件と支払いを確認してみましょう。
業務外の事由による病気やケガによる療養の休業であること
仕事以外の理由で病気やけがをした場合は、休業扱いにする必要があります。手当によって収入が保障されるのは、「労働時間外に発生した傷害または疾病による休業期間」に限定されます。
仕事に必要な業務中に負った傷害や病気は職業上の傷害の範疇となり、それらは手当の支給範囲から除外されます。基本的に、各種手当の重複申請は許可されていませんので、申請期間には細心の注意を払いましょう。
業務外の事由による病気やケガによる療養の休業であること
怪我や病気のために仕事をすることが不可能であると考えられるならば、それはけがや病気の手当を受け取ることができる、という証明になります。
各種手当の重要な申請要件として、「退職日まで仕事をすることきわめて難しい」と規定されています。言い換えれば、仕事の引継ぎなどにより退職日まで仕事をする場合、この規定から除外され、手当を受け取ることができないかもしれません。
そのため、退職するときは「退職日=最終出勤日」にならないように処理する必要があります。
休んでから4日目以降
たとえ「怪我や病気」が原因で「働きつづけることが非常に困難」になっても、休んだ次の日からすぐに申請の資格が得られるわけではありません。
休業から3日目までは待機期間とされ、4日間以上連続して休業してはじめて申請の資格が与えられることになります。
給与の支払いがないこと
傷病手当を受けるためには、大前提として、休業期間中に会社から給与が支払われていないことを証明する必要があります。休業期間中に給与の支払いが確認された場合は、手当の減額や支払いの一時停止などの措置が取られる可能性があるため、給与明細は適切に保管してください。
傷病手当でもらえる給付金額
傷害や疾病手当の支給額は、「標準報酬日額」に基づいて決定されます。標準報酬日額は、標準報酬月額を日割計算することでもとめられ、入社時から平均賃金が変わるたびに修正されます。
傷病手当金の支給期間
傷病手当金の仕組みは少し複雑ですが、支給期間については大まかには「手当の支給開始日から最長1年6カ月まで」と定められています。
この場合の支給期間は述べ期間ではなく、トータルでの期間であることに注意しましょう。つまり、その期間中に仕事に復帰してその後また休業したとしても支給期間が延長されることはなく、支給されてから1年6カ月のタイムリミットが過ぎた時点で傷病手当金の受給資格がなくなります。
退職後でも原則として支給される
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から最長で1年6カ月までです。したがって、退職後であってもそのリミットがくる前であれば残りの期間について傷病手当金が支給されることになります。
ただし、退職後の受給についてはいくつかの要件を満たす必要がありますのであらかじめ確認しておきましょう。
傷病手当の申請方法
各種手当の違いが把握できたところで、傷病手当金の申請方法について具体的に見ていきましょう。手続きのタイミングによって支給額が大きく変わってくる場合がありますので、まずは全体の流れを把握しておくことが重要です。
申請手続きの流れ
手当の受給までにはいくつかの手続きを踏む必要があります。それぞれのプロセスについて詳しく見ていきましょう。
業務時間外に深刻なケガや病気を負ってしまったら、まずは会社側にその旨を報告する必要があります。
報告後の選択肢としては、「そのまま傷病手当金の申請に移行する」、「有給休暇で対応する」などがあり、状況に応じて判断する必要があります。
会社によっては専属の労務士を雇い、社会保険や手当に関する専門的な相談を受け付けているところもありますので、安易に自己判断せず、早い段階からアドバイスを受けるようにしましょう。
申請書の記入は会社側と診断をつけた医師に依頼する必要があります。会社によっては申請手続きにあまり詳しくないところもありますので、あらかじめ手続きの概要と申請プロセスを書面などでまとめておくとわかりやすいでしょう。
一連の申請書類は協会けんぽなどの窓口に置いてありますので、万一に備えて準備しておくと安心です。
申請する時のタイミング
ケガや病気はタイミングが予想できないため、手当についても復帰後に一括で受け取ることが認められています。
ただし、まとめて申請するほど手続きも複雑化し、必要書類も増えてしまいますから、基本的には1カ月ごとに区切って申請を行ったほうが時間の節約になります。
病気やけがが発生した場合
病気やけがによって休業した場合、病院の先生に申請書を用意してもらう必要があります。
また、第三者によってけがをさせられた場合には加害者による行為を証明する傷病届を合わせて提出する必要がありますので、そろえるべき書類をあらかじめ確認しておきましょう。
会社へ報告する
休業が必要になるほどのケガや病気が発生した場合、すみやかに会社側に報告することがポイントになります。残念ながら、すべての企業が傷病手当金の手続きに詳しいわけではなく、なかには会社側のノウハウ不足によって手続きがなかなか進まない、ということも考えられるため、そうした面でのサポート体制が整っているかどうかも入社時のチェックポイントと言えるかもしれません。
傷病手当金支給申請書を用意する
手当の申請にあたってはまず、専用の申請書類をそろえることからはじめましょう。申請書類は協会けんぽなどの組合窓口から入手できますし、記入方法もけんぽのウェブサイトでわかりやすく解説されていますので、申請前に必ず目を通しておきましょう。
傷病手当のデメリット
傷病手当金を受け取るためには申請のメリットとデメリットを比較検討したうえで、お得になる部分がより大きくなる手当を見きわめましょう。
受給には時効がある
「申請する権利が発生してから2年間」が経過すると傷病手当金の時効となり、申請そのものができなくなってしまいます。受給できる期間が細切れになっている場合はすみやかに申請することで支給額を増やすことができますので、受給資格が発生した期間を把握し、もらえるはずの傷病手当金を損しないようにしましょう。
労災保険がおりて休業補償給付金をもらっている場合
基本的に、各種手当の重複申請は認められていません。したがって、労災保険に含まれている休業補償給付金をすでにもらっている場合は傷病手当金が減額されるか支給停止になるかのどちらかになり、重複して倍額がもらえる、ということにはなりません。
傷病手当は退職していてもきちんと申請しよう
傷病手当金は在職中の収入を補填するための制度ですが、要件を満たしていれば退職後であっても遡って申請することができます。
また、休業手当と休職手当など、よく似ているようでいて意味合いがまったく異なる手当もありますので、トラブルが起きる前にそのあたりについてもチェックしておくことが大切です。
入社した時点から社内の福利厚生をリサーチし、いざという時に必要な権利を行使できるようにしておきましょう。