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【1】かつて日本人が持っていた「調和の心」を現代へ。着物のアップサイクルを通じて、日本に心の豊かな人を増やしたい・山村沙世子さんインタビュー

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「アップサイクル」という言葉を聞いたことはありますか?アップサイクルとは、不要になったモノを使い、元の製品より価値の高いモノを作ることです。山村沙世子さんは、運営する着物アップサイクルブランド「あきざくら」で、着物をアップサイクルした日傘や扇子、キャップを販売しています。捨てられるはずだった着物も、日本の職人の手にかかればおしゃれな小物に変身。生地以外の材料も日本のものにこだわっているのだとか。この記事では、山村さんが「着物」に着目したきっかけや「あきざくら」を立ち上げるに至った経緯、今後の展望について数回に分けてお届けします。

「あきざくら」のメイン商品は、不要になった着物の生地で作った日傘「着物傘」。日本国内の職人に依頼し、手作業かつ確かな技術でひとつひとつ手作業で丁寧に作られています。山村さんが「あきざくら」を立ち上げるに至った要因は、現代日本が抱える問題の1つに直面したこと。日本の現状に疑問を抱いた山村さんは、どのような行動を起こしたのでしょうか?お話を伺いました。

着なくなった着物を日傘に。アップサイクルブランドを立ち上げる

ーー「あきざくら」の事業内容についてお聞かせください。

「あきざくら」は、着物のアップサイクルブランドです。日本のタンスには、お祖母様やお母様から受け継いだものの着る機会がないなど、さまざまな理由で眠っている着物があります。その着物をお客様からお預かりして、日傘や扇子、キャップを製作しお渡ししています。

ーー不要になった着物を別のものに再利用しているということでしょうか。

はい。ただし、あきざくらが行なっているのはリサイクルではなく「アップサイクル」です。例えば、「ペットボトルを再びペットボトルにする」というようにただ素材を再利用するのは「リサイクル」。アップサイクルは不要になった製品を、より価値の高いモノに生まれ変わらせることを言います。

ーーただ、再利用するのではなく、更に価値の高いモノを生み出すことをアップサイクルと言うのですね。商品の制作は山村さんご自身で行なっているのでしょうか。

いいえ。制作は国内の熟練の職人にお願いしています。技術力の高さと、元の着物の美しさを活かせるセンスと心遣いを持っている職人を厳選して、依頼しています。

ファミレスの店長と広告営業を経て独立。その後、人生の転機を迎える

ーーもともと着物に興味があったのですか?

七五三や卒業式などには両親が用意してくれた着物を着ましたが、その時はそこまで興味はありませんでした。ただ、昔の日本人の生活には興味があったので、大学時代に日本史を専攻し中世の歴史を研究していました。しかし、卒業後は飲食業や広告営業など歴史とは無関係の業界で会社員として働き、2013年にコンサルティング業で独立。2016年頃、人生の転機を迎えました。

ーーどのような転機を迎えたのでしょうか。

仕事の人間関係で、信じていた人に裏切られたり、「自分さえ良ければいい」といった思考の方とのコミュニケーションが増え、心が疲れてしまったんです。結果、当時の事業を引き上げる結果になりました。

ーーかなり厳しい状況に陥っていたのですね。事業を引き上げた後は、どのように過ごしていたのですか?

ふと周りを見た時に、日本社会全体が、同じように「自分さえ良ければいい」という空気が充満しているように感じました。そして、この社会を変えるために、心が豊かな日本人を増やすビジネスをしたいと思うようになりました。そう考えた時に、大学で学んだ日本の歴史について思い出したんです。もともと日本人は「調和」を大切にしていた民族でした。

例えば江戸時代、江戸の町は当時世界一の人口と言われる100万人以上の人々が暮らしていたにも関わらず、世界に誇る治安が良い都市でした。それは江戸の町民に周りとの調和を大切にする姿勢があったからと言われています。そこで、昔の日本人の考え方や行動を学ぶことで、「調和の心」を取り戻すヒントが得られると思い、昔から今に続く日本の伝統文化を学ぶことを決意しました。

日本の伝統を学び直す中で着物と出会う

ーー大学時代に学んでいた「日本の歴史」がヒントになったわけですね。具体的に、どのような日本の伝統文化を学んだのですか?

華道や茶道を習う、歌舞伎を観に行くなど、日本の伝統文化に纏わることなら何でも挑戦しました。着物に興味を深く抱いたのもこの時期です。パーティでのお呼ばれで、初めて自分の意思で着物を着たのですが、気づいたら言葉遣いや所作などが普段よりも上品になっていたんです。無意識に着物に見合う人間になろうとしたのだと思いますが、「着物には魔法がかかっている!」と感動しました。

ーー着物に魅了された瞬間ですね。

はい。その後は着物熱に火がつき、着付けを習いに行きました。着付けを習う中で、汚れた部分が見えなくなるように着物を仕立て直す、染め直すなど、長く使うためのたくさんの工夫が存在していることを知りました。昔の日本人のモノを大切にするための知恵の数々に感銘を受けました。

ーー汚れたから処分するのではなく、可能な限り直して使い続けるということでしょうか。

そうです。これは、モノが不足していた時代というのもあるのでしょうが、自然との調和や周りの人との調和を大切にしていた日本人だからこそだと感じました。そこから、着物を通じて「調和の心」を日本に広め、心の豊かな人を増やしたいと考えました。更にリサーチをした結果、着られなくなった着物で日傘を作ることを思いついたんです。

人生の転機に大学時代の学びをヒントに行動をしたことでやりたいことが見つかった

日本社会の問題を身をもって体験した山村さんは、心の豊かな日本人を増やしたいと思い、大学時代の学びをヒントに日本の伝統文化を学ぶことを決意。様々な伝統文化を学ぶ中で着物と出会い、昔の人の「モノを大切にする」ための多くの知恵を知りました。着物を通じて「調和の心」を広められると考えた山村さんは、着物で日傘を作ることを思いつきます。次回は、ブランドを立ち上げるまでの山村さんの奮闘をお届けします。

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